余積から積への標準的射がモノとは限らないアーベル圏

命題

余積から積への標準的な射であるがモノ射でないような射が存在するようなアーベル圏が存在する.

構成

$\mathbf{Abel}$をアーベル群の為す圏とし, 普遍性により生える標準的な射$\coprod_{n\in\omega}\mathbb{Z}\rightarrow\prod_{n\in\omega}\mathbb{Z}$を$f$とする. このとき双対圏$\mathbf{Abel}^{\mathrm{op}}$に於ける$f$は余積から積への標準的な射だがモノ射ではない.

証明

双対圏に於いて$f$を観察する. 分かり安さのため双対圏に於ける$f$を以下では$f^{\mathrm{op}}$と書くことにする. 先ず$f^{\mathrm{op}}$の始域は$\prod_{n\in\omega}\mathbb{Z}$であり, これは双対圏に於いては余積である. 全く同様にして終域は$\coprod_{n\in\omega}\mathbb{Z}$であり, これは双対圏に於いては積であることが分かる. よって$f^{\mathrm{op}}$は$\mathbf{Abel}^{\mathrm{op}}$に於ける余積から積への射であり, $\mathbf{Abel}^{\mathrm{op}}$に於いて普遍性により生える射と一致する.

また$f$は$\mathbf{Abel}$に於いてモノ射であるがエピ射ではないため, $f^{\mathrm{op}}$は$\mathbf{Abel}^{\mathrm{op}}$に於いてエピ射であるがモノ射ではない. ところでアーベル圏の定義は自己双対的であったため, $\mathbf{Abel}^{\mathrm{op}}$はアーベル圏である. 以上より$f^{\mathrm{op}}$が反例を与えることが分かった.

補足

上述した例はアーベル圏が自己双対的な定義によることから簡単に分かることですが, (少なくとも僕にとっては)意外と盲点だと思われるので紹介しました. 同様の方法で多くの例が構成されることは直ちに分かることだと思います.

今回の証明には関係ありませんが$\mathbf{Abel}^{\mathrm{op}}$について少し補足し, それにより(この例に限った話にはなりますが)何故こういった現象が起きるのかをもう少し具体的に説明しておきます. 先ず第一に局所コンパクト可換群の為す圏はPontrjagin双対によって自己の双対との間に反変圏同値が与えられていることが重要です. この圏同値は離散可換群に対してはコンパクト可換群が対応し,その逆も成立することが知られています. 離散可換群の為す部分圏は$\mathbf{Abel}$と圏同値ですから$\mathbf{Abel}^{\mathrm{op}}$はコンパクト可換群の為す部分圏に対応することが分かります. この例の話に戻ると,離散群$\mathbf{Z}$の双対群たるコンパクト可換群は$S^1$であり, (もう少し議論する必要ですが,結論を述べれば)$S^1$の可算無限余積から可算無限積への標準的な射はエピだがモノではないことになるわけです. これはPontrjagin双対に馴染みがないとあまり直観的ではないことだと思いますが, 双対を与える函手の構成の際にBohrコンパクト化をしていることに起因する現象に他なりません.